第1790話 ■逮捕せずとは
例の尖閣諸島沖で、中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしてきた事件のビデオ映像が流出した件で、警視庁と東京地検がその画像を流失させた者を逮捕せずに任意での取り調べを継続することにした。私は見ていないが、流出者が名乗り出た当日の報道では、顔も名前もニュースでは伝えていたらしい。各テレビなどは「逮捕へ」とも一斉に報じていた。
しかし、次第に報道のトーンは低下し、中には「そもそも機密か?」とか、「国民の知る権利」なんて論調も出てきた。もはや容疑者という呼称も使用せず、「海上保安官」と言っている。しかも海洋保安庁は彼をクビにもしていない。いかに罰するか、あるいは無罪とするのかは裁判所に任せて、警察や検察は容疑者として即刻逮捕するべきである。国家公務員法の秘密保持に違反する行為で逮捕容疑としては十分であろう。
これが組織の不正を暴いたものなら別だが、上位組織である政府が「非公開」と判断したからには、組織人としてそれは守らなければならない。「非公開」との判断が正しいかどうかは別の問題であり、少なくとも保安官ごときが勝手に判断できるものではない。まずは規律を守ることから始めなければ、組織の秩序は成り立たない。特に、警察、自衛隊、それに海上保安庁といった公権力を持つ組織は尚更のことである。
それにしても問題の映像が、海上保安庁ではしばらくの間、自由に閲覧できる状態にあったことには驚いた。流出当初、映像は那覇海上保安庁か那覇地検にしかなく、いずれも厳重に管理されていると発表された。これは分かっていて嘘をついたのか、それとも組織の幹部はそのように報告を受けただけで実際の状況を知らなかったのか。おそらく後者であろう。しかも、しばらくの間、海上保安庁では自由に閲覧できる状態であったことが、「容疑者」の自供によってようやく明らかになった感じだ。すると、現状を知っていながら、嘘の報告を上に挙げた者がいることになる。こいつも組織としてはガンだ。海上保安庁全体に緊張感がなさすぎる。だから、「容疑者」のような誤った正義感を振りかざす奴が出てくる。
組織とは規律が重要である。それが嫌なら、組織人を辞めて、自由に暮らせば良い。少なくともそんな人間が公務員でいて貰っては困る。これが一公務員の恣意的な判断により、国益を損なうような結果になっていたらと思うと非常に怖い。彼を懲戒免職にできないのは、その責任が組織の長や所管の大臣にまでおよぶことを嫌っての事だとすると、これまた許しがたい。結局のところ、今回の件で誰一人として責任を取っていないのは、まさに異様だ。
(秀)
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