第1812話 ■ライター病院

 私の郷里にかつて「ライター病院」と呼ばれていた、こじんまりとした店があった。その名前は通称であるのだが、その名前から察するに、壊れたライターを修理するところなのだろうが、あいにく子どもだったので、そのような利用はやったことはない。病気になった物書きを治療してくれる所では、もちろんない。

 別にこのライターの修理だけで店が成り立っていたわけではなく、路地に面した、狭いKIOSK程度の広さの店であったが、本業はむしろ電球の販売だったのかもしれない。家の電球が切れると、親にその切れた電球を渡され、「ライター病院に行ってこい」と命じられる。その切れた電球を、そのライター病院の年老いた主に差し出すと、同じものを棚から探してくれて、手元のソケットにねじ込んで、電球が点くか検品をしてから渡してくれた。

 世の人々の多くが家電品を大型家電店で買うようになったので、街の電気屋さんが消えていった。中には対抗策として、地域密着作戦で、特に年配者を対象に小回りの利く販売戦略をとって成功している店もある。「電球一つからでも」というやつで、高い位置にある奴も現地で交換してくれるらしい。

 もちろんこのライター病院は今はもうない。ライターを修理に出す人なんて、もはやいないだろうし、電球もコンビニなんかで買えてしまう。電球という響きと、こじんまりとしたそれくらいの商いでよく続けていけたなあ、と思う。けど、そんなかつてのゆっくりした感じの商売にちょっと惹かれたりする。やってみる?。今だったら、LED電球だろうか?。電球が長持ちし過ぎて、それこそ客が来なくて、ダメだ。

(秀)