第264話 ■味中華

 車を駐車して、1時間ほど人を待つことがあった。こんなときは本を読むかコラムを書くことにしている。するとトイレに行きたくなった。通りの向こうのスーパーマーケットにトイレがあるのは分かっている。それは店外から出入りするスタイルだ。それを利用するのが最も便利であるが、そこには1つ大きな障害が立ちはだかっている。駐車場係だ。決まって駐車場係はトイレの横あたりに立っている。通りを渡って一目散にトイレに駆け込むには、彼の視線が気になる。一度店に入って、それからトイレに行くという作戦もあるだろうが、小心者の私には手ぶらで店を出て、駐車場係の前を通り、トイレに行く勇気はない。

 いずれの作戦をとろうとも、そのトイレを利用すると決めて、車を降りた。通りを渡り、駐車場からトイレまでのアプローチの過程で、「いらっしゃいませ」と、彼が声を掛けて来た。私の足はわずかながら左に軌道修正して、とりあえず店内に逃げ込む。こうなったからには、ちょっとばかり買い物をして、堂々と彼の前を横切ることにした。ところで、何買おうか?」。ちょっとのはずが、1,500円も使ってしまった。ミニよもぎ餅10個パック(=その日のおやつ)、オロナミンC 10本パック(=コンビニで都度買うより安かった)、牛肉コロッケ1個(=お腹が空いたので、これから車の中で食べる)。そして、「味中華」という、中華調味料を買った。

 「ウェイ・ツォン・ファー」。「味中華」を中国語として読むと、そうなるらしい。パッケージにそう書かれている。缶に入ったペースト状のものであった。同様の中華調味料に「味の素 中華あじ」というものがあるが、こちらの方が中国語読みもふられて、中国4000年の食文化のエッセンスとしては似つかわしい。その日の夕飯はパッケージの写真に触発され、炒飯となった。