第484話 ■昨日のネクタイ

 新年度も始まり、街に新入社員があふれる季節である。会社に近づき、電車を乗り換える度に自分の勤めている会社の新人らしい者達と電車に乗り合わせる。社員バッチを見れば分かる。「新入社員だったら、せめて最初の数ヶ月ぐらい白いワイシャツを着ろよ」、と言ってやりたい。皆同じように黒系のスーツにこれまた黒系のシャツを着ている。まるで偽物ホストのようだ。

 このことを家に帰って妻に話したら、「そういうのが気になるのは、おじさんになった証拠よ」、なんて言いやがる。悔しいのでその翌日は色シャツを着て会社に出掛けた。ペパーミントグリーンの。

 女性は我々男性が思った以上に男性の服装をチェックしているようだ。とりわけ、ネクタイへのチェックが厳しい。そのスーツやシャツに合っているかどうかだけでなく、毎日顔をあわせているような場合は、そのローテーション(何本ぐらい持っていそうか?)まで観察されている。

 以下、私のオフィスでの会話。 「○○さん、最近ずっと同じネクタイですね」(女性の同僚)。 「えっ!、バレてた?」(男性の同僚)。 別に連日のお泊まりでもないようだ。ちなみにこの男性は独身である。 「ダメですよ。ちゃんとしとかないと。いつ、(女性との)突然の出会いがあるか分からないし」。(さっきの女性の同僚) その会話を聞いていて、私が突然口を挟んだ。 「大丈夫ですよ。突然出会ったような人なら、昨日と同じネクタイをしているのかどうか分かりっこないですから」。

(秀)