第746話 ■ゲバゲバ

 先日、夜のNHK BSで懐かしいコミックソングを紹介する番組をやっていた。往年の映像なんぞも見られのるかと期待したが、「夜もヒッパレ」のように全然別の人が歌い、その出演者もせこく、ちょっとがっかりだった。それでも流れて来る曲のほとんどが口ずさめるうれしさから全部見てしまった。

 そんな中、「老人と子供のポルカ」という曲が紹介された。私が物心が付く頃、テレビで彼らの歌う姿を見ていた。左卜全という喜劇俳優の爺さんが椅子に座って(、しかも片手には杖を握っている)、その周りをいたいけな4、5人の子供が取り囲んで歌う。ところで左卜全というこの爺さん、映画のちょい役で出たりしているが、昔っから爺さんで、わざわざ出るほどのことはないような存在であった。そんな立ってられないような爺さんが何でまたこんな子供達と歌を歌わねばならないのかは一切分からないが、まだ新鮮だった私の脳みそにはこの曲の歌詞とメロディが深く刻み込まれてしまった。その中に「やめてケーレ、ゲバゲバ」という歌詞が出て来る。

 当時同じく「ゲバゲバ」と言えば「ゲバゲバ90分」という日テレの人気番組があった。番組名の冠に「巨泉・前武の」と言うのが付く。巨泉はもちろん大橋巨泉、前武とは前田武彦のことである。当時売れっ子の放送作家だった。中身はナンセンスなショートコントを時間内立て続けに流すものだった。エレベーターの扉が開くと、そこに階段があったり、電話の受話器から突然シャワーのように水が出て来たシーンを覚えている。コントが終わるごとに「ゲバゲバ、ピ」というアニメーションやハナ肇の「アッと驚くタメゴロー」なんてインターバルをテンポ良く流していた。

 さて、肝心の「ゲバゲバ」とは何か?、についてである。「ゲラゲラ90分」ではなく、「ゲバゲバ」なのである。これは時代の産物と理解するしかない。「ゲバゲバ」というと分かりにくいが、これは「ゲバ」のことである。学生・新左翼運動の用語で、国家権力に対する実力闘争を意味するドイツ語のゲバルトの短縮形がゲバである。内ゲバ、ゲバ棒。それが一転、2つ続けるとゲバゲバと何か面白い言葉になってしまう。「やめてケーレ、ゲバゲバ」。これが時代のメッセージソングだとは気づかずに、私の脳に浸透していった。30年ちょっと前のお話。

(秀)