第756話 ■ビッグマネー!

 「Money changes everything」。このフレーズに初めて接した時、私はこれを「金は何にでも変化する」=「金で全てが買える」と訳した。ところが正しい訳は「金は全てを変えてしまう」だった。もちろん、人の心も。金は人間が作り出したものだが、それが逆に人間を支配するようになった。人間が作り出したにもかかわらず、それが人間を支配する、このような概念を初期のカール・マルクスはその著作の中で「疎外」という言葉で紹介している。

 さて、前置きはこれくらいに。単なるマネーでなく、ビッグマネーである。株価のわずかな数円単位の動きからリアリティーの限度を超えた金銭感覚をこのドラマを通じて覗き見ることができる。主人公の白戸則道(長瀬智也)は求職中のフリーター状態の時に、ヤクザのいざこざの場で謎の老紳士、小塚(植木等)と出会う。一見偶然のようなその出会いも小塚は白戸のことを知っていた。白戸は株のやり取りで稼いでいるという小塚のもとで働くこととなった。彼の仕事は新聞等を調べ、そのデータを記録し続けること。それと、小塚の飼い猫、菊奴の世話。

 一方、彼らのライバルと言うか、敵対関係にあるのは、まつば銀行の山崎(原田泰造)。彼は香港支店での株のディーリングにより評価され、日本に一時的に呼び戻され、経営企画部調査役(けど、支店勤務)として不良再建処理と「相続保険問題(詳細はまだ明らかになっていない)」解決の仕事を担当する一方、得意の株取引も香港支店を介することで続けている。行内では20年後の頭取とまで囁かれるほどの凄腕だ。お笑いの人間がやるにはちょっと格好良すぎる役だと私は思うが。

 小塚はかつて証券界に君臨した伝説の相場師である。わずかの時間に株の価格を吊り上げ、そしてそれを巧みに売り抜けることで、10億円あまりの儲けをあげてしまったりする。かと思うと、病気の愛する人のために研究開発費に金を使いすぎて潰れそうな製薬会社の株を筆頭株主として買い支えたりもする。製薬会社の例もある通り、小塚は金の亡者ではない。

 小塚の最終目的は「まつば銀行」を潰すこと。何やら個人的な恨みを持っているらしい。小塚の白戸に向けた「コツコツ働くのはいい。だが、現実にマネーの世界はたえず弱者を飲み込みながら生き続ける。君も飲み込まれる一人になるか。その前に戦ってみたらどうだ?」という言葉を思い出す度に、金を操りながらも、実は金に操られているかもしれない、そんなドラマの展開に私も踊らされている。

(秀)