第772話 ■臆病風

 会社のイントラサイトから「秀コラム」のサイトへリンクを張らせて欲しいという申し入れがあった。会社と言うのは他でもない、私が勤務している会社である。イントラサイトと言っても、会社の全社員が見るような基幹のものではなく、部門で管理しているものでしかない。それでもきちんと業務で使用しているものには変わりない。つい先日までそのサーバとサイトを管理していたのは他でもない、私だった。

 部門サイト、しかもこのサイトにはIDとパスワードによるセキュリティが掛けられている。利用できる対象者も限られ、日々のアクセス数もそれほど多くはない。しかしながらセキュリティを掛けるに値するほどの価値ある貴重な情報がそこからは発信されている(と、かつての当事者としては手前味噌ながら思っている)。

 そこに自分のプライベートなサイトへリンクを張ろうなど、自分が管理者をしているときは思いもしなかった。「私物化している」、「真面目に仕事しろ!」などというお叱りを受けるのが容易に予想されたからである。しかし、新しい管理者から「サイトの賑やかしのためにリンクを張りたい」と打診されたときはちょっと違った。先ほどのようなお叱りも今回は自分の責を免れると思った。即時に快諾の返事をした。「これで読者が増えるぞ」と。

 ところがそれからしばらく、仕事の手も止めて、思案した。「本当にリンクを張っても良いものか」と。確かにイントラサイトへのアクセス者は限られている。しかし、私のサイトのURLを他人に転送することなど、造作もない。まあ、それが読者数増への期待でもある。気になるコラムが数編、頭をよぎった。もしそれが、まわりまわって当事者の目に触れるのはやばい。それにこうして毎日コラムを書いていることを会社でもあまりおおっぴらにしていない。それは監視され、意見され、書きたいものが書けなくなるのを避けるため。

 「やはりこの根本は守ろう。読者数よりも自分の書きたいものを書き続けられる環境の方が大事。そして、読まれたらまずいコラムもあるし」。席を立ち、急いで階段を駆け上がると、「臆病風に吹かれちゃったよ。さっきのリンクの件、やっぱりやめて」と詫びた。

(秀)