第779話 ■空き巣

 「それはきっと、ストーカーの仕業だよ」。言われた方もこの話をするたびに周りにそう言われるらしく、笑ってみせるしかない。最初はこの話をしてくれた女性に対するストーカーだと思ったが、話を詳しく聞くにつれて一転。旦那に対するストーカー、しかも昔の女説まで出てくる。話題の発端は鍵であり、それが転じて空き巣の話になった。「私が以前住んでいたところ、空き巣に入られて、それが嫌で引っ越したんですよ」。

 不思議と写真などがアルバムごと盗まれたらしい。もちろん、他にも金品や実印までも盗まれてはいるが、写真を持っていくと相当気味が悪い。新婚家庭に突然現れたこの空き巣。合鍵を持っていた、旦那の昔の女では?、と私は読んだ。

 しばらく後に盗まれた品物の一部が「ゆうパック」で送り返されてきたそうだ。律儀と言うべきか、なんと言うべきか。その中に実印は含まれていたものの、写真は返って来なかった。ここでまた周囲の想像はさらに膨らむ。「きっとその写真は切り裂かれたり、針を刺されたりしてんだよ」。

 送り返されてきた箱から鑑識で指紋を採取しようとしたりもしたらしいが、結局その空き巣は捕まっていない。私は、犯人像を推理する上で、彼女に対する大事な質問を一つ忘れてしまっていた。もしそれも一緒に盗まれていたとしたら、旦那の昔の女説は取りあえず消える。しかし、そんなこと面と向かって職場で聞けるものではない。その質問とは、「盗まれたものの中に、あなたの下着は含まれていましたか?」、だった。

(秀)