第862話 ■ホーム&アウェイ

 10月になって、また今クールのドラマが始まった。先クールも色々と見ていたが、何時コラムに書こうかと思ってうちにタイミングを逸してしまった。「ネタに困ったらドラマネタ」と思っている人もいるようだが、必ずしもそういうわけではない。まあいろいろとドラマネタで日数を稼げるのなら楽ではあるが、数ヵ月後や数年後にそのコラムを読み返してみて、「こんなドラマあったっけ?」というようなドラマについては書かないことにしている。最近は「いつか見たぞ、この構成」というドラマが多くなって困る。

 いろいろと思いがけないアクシデントが起きる。例えばそれで待ち合わせに遅刻したりする。さてさて言い訳は。「来る途中に川で子供が溺れていて…」、「道で外人に声かけられて…」、などなど。つくならもっと上手い嘘つけよ、と言いたい。月曜9時のフジテレビで放送されている「ホーム&アウェイ」は主演の中山美穂がトラブルに巻き込まれて、居場所を転々とし、自分の思惑に反してなかなか家に帰り着かない、そんなストーリである。どうして自分が今ここにいるのか、財布も携帯も無くしてしまった理由を出会った人に話しても誰も信じてくれない。まるで、遅刻したときの下手な言い訳のように聞こえてしまう。電話で友人に助けを求めようとも、携帯に頼りすぎていたため、今となってはその電話番号が思い出せない。

 そもそもは予定を変更して一人で乗った、上海からの帰りの飛行機が天候不良で成田ではなく、仙台に到着したことに始まる。何とかアクシデントがありながらも東京のマンションの自室の前までたどり着いたものの、部屋に入ることなく、隣の部屋に住む家族の夜逃げに巻き込まれて北海道の草原に置き去りにされる。そこで携帯は馬に食われ、財布をヒッチハイクした車の中に落としてしまった。しばし、ここで助けてくれた人との出会いがある。そして、その次は乗った船が難破し、無人島に漂着。密入国の船に便乗し、その島を脱出できそうになったが、海上保安庁に違法入国者として検挙される。「中国から…」と自分がここにいる顛末を説明したり、上海土産のチャイナ服を着ていたのもまずかった。あまりにも偶然的なアクシデントと彼女の時々の選択によって現れる展開によって、ますますトラブルは螺旋を描き、混迷していく。

 毎回彼女はその土地土地で人と出会い、助けてもらいながら、その人の家族や生活に関わっていく。そこには家族を巡って自分がこれまで過ごしてきた境遇に共通するところがある。毎回舞台が変わるので、限られたセットの中での息苦しさとは無縁である(病院ドラマなどになると結構息苦しさを感じてしまう)。毎回ドタバタで、コメディではあるが、切なくて、ちょっと心が温まる。恋愛抜きのどこか「寅さん」、そんなドラマだ。

(秀)