第95話 ■アナログな女性

 夏休みに昼間っからカラオケボックスに出掛けた。夏休みと言っても世間のサラリーマンの皆様は働いている頃の話である。この時期昼間っからカラオケボックスに来るのは、学生か、おばさんの団体というのが多い。ちょうどおばさん達と入れ替えのタイミングであった。なかなかテキパキといかない。割り勘が妙に細かすぎたり、「トイレに行ったまま、○○さんが戻って来ない」とまとまりもつかない。そんなおばさん達をよそに、とりあえず、部屋に向かうのであるが、中には一人っきりで歌っている人がいる。女性だ。そうなのかは分からないが、水商売のお姉さんが昼間にカラオケの自主トレをやっているといった話を思い出した。

 お姉さんも色々と大変なのである。店にもよるが、客にまめに電話をしたり、毎週のように美容院に出掛けたり、新曲の練習にも余念がない。ボックスに通う前にはレンタル屋でCDを探していることだろう。けどきっとそのCDのダビング先はカセットテープなんだろうな。それもCDラジカセか、ちゃちなミニコンポの。MDの普及率なんて彼女達の業界では極めて低いだろう。私の思い込みでしかないがそんな気がする。あまりハイテクなお姉さんを見たことがない。MP3など、「何それ???」といった感じだろう。

 飲み屋でパソコンの話などをするとそれなりに彼女達も関心を示して来る。ちょっと前はデジカメが結構受けた。しかし、「私もパソコン始めようかな?」、「教えてくれる?」、これらは社交辞令でしかない。買いたいという気持ちが例え本物であるとしても、いざ十数万円の金となると他に欲しいものを買ってしまうのである。「私もパソコン買おうかな?」というのは「買ってくれないかな?」と聞こえて来たりする。そんなときはもちろん聞こえていない振りをしている。