第970話 ■吉野家の店員
- 2003.03.26
- コラム
私の吉野家デビューは就職で上京してからであった。生まれ育った地元に吉野家がなかったからだ。そのデビューの前後のどっちだったか覚えていないが、「ツユダク」、「ネギヌキ」なるオーダーが存在することを知り、最初はツウの中だけで通用するものだったかも知れないが、いつの間にやらそれほどの常連客でない人でもこのようなオーダーを平気で口にできるような常態に今日ある。
どの業界でもその業績の高い順に優秀な人材が集まるのが一般的である。そしてこの手の企業では集まった優秀な人材に対し、きちんとした教育を行うので、その状態は時間の経過とともに強化され、拡大して再生産されていく。例えばファーストフーズでバイトしようと思えば、まず最初にマクドナルドに行くであろう。最初からマイナーなハンバーガーショップに行ってみようと思うのは、人づてか家から近いからなどの特別な理由があるからではなかろうか?。
吉野家に酔っ払った年配の客がやって来た。オーダーは「並盛、肉多め」である。ツユダクやネギ多めぐらいなら可能だろうが、そもそもの「肉多め」は反則である。この客が店員を困らせてやろうとわざと言っているのか、酔っ払っていて訳分からずに言っているのかは不明だ。それでも業界トップ企業の店員はひるまない。普通なら「並盛の肉多めというのはございません」と返すだろう。それでは客は不機嫌になる。そこをこの店員は「特盛のご飯少なめでしょうか?。あいにく特盛のご飯少なめというのはできませんが」と返した。ここで客の頭の中は「特盛??」となり、ダイレクトに不機嫌となる可能性は減少する。
特盛とはご飯は大盛りで肉は並盛の2倍という触れ込みである。厳密にそうだか確認したことはないが。要は、お金は高くなるが肉はたくさん入っている、食べきれなかったらご飯を残しても良い、というわけだ。もちろん、この方が店の売上は大きくなる。見事な切り返しと言えよう。私がもし店員の立場だったら、「はい、お待たせしました」と普通の並盛を出して、聞かれたら、「ちょっとだけですけど、肉余計に入れときました」ぐらいの嘘をついて済ませるだろう。ましては相手は酔っていることだし。結局、いくつかのやり取りの後、客の前に普通の並盛が出てきた。
(秀)
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