第971話 ■中吊り広告

 通勤の行き帰り、電車の中。耳にはヘッドフォンをねじ込み、手には文庫本を持ち、毎日往復で約2時間の時間を過ごしている。まあ、帰りの電車では座れこそしないものの、網棚に鞄を載せることはできる。しばしの読書タイム。しかし朝はこうはいかない。周りを囲まれて身動きが取れず、本を開くスペースなどない場合も多い。場合によっては吊革に掴まったまま目を閉じ、しばし休息の時間となる場合ある。

 本当に身動きが取れず、そして目を閉じるでもないときは車内の中吊り広告を眺めるしかない。電車によってはその全車両が単一スポンサーの広告車両のときもある。これは面白くない。同じ中吊りがただ繰り返されるばかりだ。やはり車内の中吊り広告はバラエティに富んだものがいろいろと組み合わされているのが良い。まるで幕の内弁当みたいに。

 車内広告にはいろいろと種類があるが、実際に見てて面白いのはやはり週刊誌の中吊りだ。週刊誌は都会型のメディアだと思う。通勤や通学に電車を使うからその間に週刊誌を買って読む。その関連性において電車内の中吊り広告は効果が高い。私も中吊り広告を見て、その直後にその雑誌をKIOSKで買い求めたことが幾度となくある。

 女性週刊誌のはさすがにフルカラーだが、オヤジ週刊誌の中吊りというのはセンスがない。写真は白黒、文字は赤青黒。文字の色が違おうと、だいたい使用されている色数は3色程度だ。写真も含めてフルカラーではない。きっとこれはコストダウンのためだろうが、まるで昭和30年代や40年代の頃から変わっていないのでは?、と思ってしまう有様だ。デザインのセンスとしては田舎のスーパーのチラシなみ。センスの欠片も感じられない。

 今時分はイラク戦争の話題が各誌のトップ記事のようだ。フセイン、ブッシュの写真が並んで載っている。それに小泉や金正日の写真が絡んでいたりする。目次のダイジェストのような文字にあわせて写真が配置されている。世間的に認知度の高い人の写真であれば問題ないが、微妙な線というのがある。「あの写真はいったい誰だ?」と気持ち悪いまま電車を降りるときもある。文字数等の関係で写真が変な位置に配されている場合もしばしば。これがまた結構笑える。あまり良い例を思い出せなくて恐縮だが、是非探して欲しい。

 さらに、「戦争」、「戦慄」など、おどろおどろしい活字が躍る数行横で「悦楽」、「エクスタシー」、しかも「袋とじ」なんて文字がさらに大きく載っている週刊誌広告というのも今なら旬として楽しめたりする。センスはないがなかなか奥は深い。

(秀)