第1044話 ■スイカ割り・前編

 母親の実家は農家であった。養豚業が主であるが、かつては田植えとなると嫁いだ母の姉妹も召集されるほどの田んぼがあった。次第に政府の減反政策にあわせて米作りをやめ、自分たちが食べるほどしか作っていないらしいが、その過程で売りに出された田んぼが彼らの家を建て直した際の費用に化けているに違いない。同じ祖父母を持つ従兄弟ながら、外孫である私は祖父さんの遺産どころか、形見にもありつけなかった。

 まあ、そんな恨み言はもはやどうでも良い。私が夏休みにこの田舎に行く度にいろいろと良くしてもらったから。その家には私より年上の従兄弟が二人いて、よく遊んでもらった。家の横には納屋があって、トラクターがしまわれていたが、夏のある日にはその納屋の地面一面にスイカが転がっていたことがある。その数、30個くらいはあっただろうか?。既に農協への出荷は済んで、形がいびつで出荷できないものだけがそこに放置されていた。

 真ん丸いスイカを作るためには、赤ん坊の後頭部が絶壁にならないように、寝ているその頭の向きをたまに変えてあげるように、ゴロゴロと多少向きを変えてやらねばならないのか?。そしてこのスイカたちはその手間を怠った結果か?。もはや知る由もない。従兄弟にはどうでもないスイカでもこれだけの量のスイカは私には感動ものである。実家の隣が八百屋で、その店頭に丸ごと並んだスイカを大量に目にすることには慣れていたが、それには何がしかの値段が付いている。形がいびつだろうとお構いなしに目の前に転がっているスイカに値段を付けてみた。子どもにとってはそれこそかなりの金額になる。

 いったいこのスイカは出荷されることなくここに放置され、その後どうなるのだろうか?。周りも農家ばっかりだから、お裾分けというわけにもいかないだろう。腐らせてそのうち畑の肥料にするつもりか?。それとも豚のえさにでもするのか?。「1、2個なら良いよ」という従兄弟の声に、子ども三人でスイカをネタに遊ぶとなれば、もはやスイカ割りしかない。小振りながら適当なものを手に取り、藁と油の匂いのする納屋を出た。うまい具合に手頃な棒が転がっている。鍬の先が取れたもののようだ。

<後編へつづく>

(秀)