第1045話 ■スイカ割り・後編

 こうして我々3人のスイカ割りが始まったが、3人でのローテーションではさすがに間が持たない。結局どういう形でそのスイカが割れたのかは記憶していない。記憶していないということは、どうやら私が叩き割ったわけでないことは確かであろう。3人とも諦めて、最後は目隠しなどせずに叩き割っておしまいにしたかもしれない。

 スイカ割りは事前の余興というか、セレモニーでもある。バースデーケーキのろうそくを吹き消すのと似ている。ことが終わった後に叩き割ったスイカを何事もなかったかのように片付けてしまったりはしない。そこからそのスイカを食べる楽しみもある。スイカを叩き割った人には名誉が与えられ、しかし外してしまった人にもスイカは分け与えられる。これまたバースデーケーキと同じだ。

 我々3人が口にしたスイカはまずかった。そもそもそういう程度の味だったのかもしれないが、それ以上の理由は常温で生ぬるかったせいだろう。それに3人でのスイカ割りがあまりにもつまらなかったせいでもあろう。多くの観客の中、いろいろな歓声の中で棒を振り下ろすのとは違う。3人でやっている限りはすぐに順番がまわって来る。外したところで次の順番を待って、外したことの悔しさなどほとんどない。まるで「黒ひげ危機一髪ゲーム」でもやっているようなものだ。

 やはりスイカ割りは海岸に限る。しかも多少の観客を擁して。そして何よりスイカ割りは「ハレ」の儀式である。まず海水浴という舞台が既に「ハレ」である。スイカ割りの良さはそのルールの単純さにある。また、能力など関係なく、ギャンブル性が高いところに面白さがある。あんな遊びをするのは日本人ぐらいだろうか?。南の国の人々がトロピカルな、例えばドリアン割りなんてことをやっているとは思えない。

 今は丸ごとのスイカを見る機会もめっきり少なくなった。ビニール紐で編み上げたネットに入った丸ごとのスイカなど、もう何年も見ていない。きっとそのうちスイカは貴重品になって、スイカ割りはお大尽遊びになるやも知れない。そしたらまた従兄弟の家に集まって、3人+その家族達でスイカ割りをやってみようかと思う。あのときとは多少違った味わいが楽しめるかもしれない。井戸であらかじめ冷やしておいて貰おう。

(秀)