第582話 ■クラヤミの会社

 会社からの帰り、文庫本から視線を上げると、その視線の先に「クラヤミ三○堂(○は伏せ字)」という社名があった。場所は、有楽町駅と東京駅の間の八重洲口側。東京駅から徒歩3分(ぐらいか?)の都心の一等地に謎の社名を持つ会社が10数階建てのビルにこうこうと電飾の看板を掲げている。

 ずっと前からこの看板はそこにあったのだろうが、気が付いたのは初めてのことだ。一体ここは何の会社なのだろうか?。まるで喪黒福造でも勤めていそうな名前だ。私の中で「クラヤミの会社」として通勤の行き帰りに悩まされた。そして、ある日その看板に引かれるように東京駅で下車し、いつの間にか、八重洲口を出ていた。

 というのは嘘で、インターネットで調べてみることにした。「クラヤミ三○堂」と入れて検索すると、該当がないし、「クラヤミ」でもそれらしいのは出て来ない。「三○堂」と入れると出て来た。あれ?!、私は大きな勘違いをしていたようだ。「クラヤミ三○堂」ではなく、「クラヤ三○堂」だった。漢字の「三」とカタカナの「ミ」は確かに似ている。それが理由だと思うが、わざわざ文字を補って、「クラヤミ三○堂」だと思い込んでしまっていたのだ。

 その会社の正体は、業界トップの医薬品卸会社だった。東証の一部上場企業でもある。「さすがは八重洲に本社を構えるだけはある」と、早くも豹変。その一方で、ちょっとがっかり。しかし、「クラヤミ○堂」と今でもあの看板のロゴは読めそうな気がする。気になる人は検索エンジンに「クラヤ」と入れて探してみると良いだろう。

(秀)