第1199話 ■虫下しチョコ

 聖なるバレンタインの日にこんな話題も恐縮だが、一応チョコレートネタである。私はビターチョコレートというのが嫌いだ。大嫌いだ。その理由をたどればざっと三十四、五年前の話になる。私は小さい頃、虫下しを飲まされていた。「虫がいる」とどんな虫か知らないが、勘の虫というやつなのかもしれない。その虫下しの薬がチョコレートだったのだ。

 子供が食べるものだから甘く味付けられていれば良さそうなものの、砂糖が足りないのか、純粋なカカオではないのか、日頃食べていたチョコに比べると明らかにまずく、それから数年後にその味を思い出したのは、ビターチョコレートを口にしたときだった。そっくりな味。子供騙しと言うか、この虫下しチョコのパッケージは明治のデラックスチョコのそれを模していた。ちなみに当時よく口にしていたチョコレートというのは板チョコなどではなく、チューブチョコレートだった。食べ終わって、にっと笑うと口の中はお歯黒になっている。

 苦いチョコを口に入れた瞬間、出せるものなら、口から出してしまうし、無理な場合は飲み込んでしまう。手に残った欠片は捨ててしまう。ゴディバだろうとノイハウス(読めるけど、スペルは書けない)だろうと苦いチョコで思い出すのは虫下しチョコ。例え口にしなくても条件反射のごとく、苦い思い出もよみがえる、そんな一日。

(秀)