第1267話 ■肝油ドロップ

 小学校での保健係の仕事の一つに、休み時間に保健室から肝油ドロップを持ってきて配布するというのがあった。授業の途中に具合が悪くなった人を保健室に連れて行くことと並んで、保健係にとってこの肝油ドロップの配布は極めて重要なミッションであった。私は保健係ではなかったが、このミッションのために保健係の友達について保健室に通うことが何度かあった。確か、男女で交代して保健係はそのミッションに当たっていたと思う。

 保健室は職員室の隣の隣にあって、部屋に入るとテーブルに学年とクラスが書かれた半透明のプラスチックの箱があり、そこに人数分の肝油ドロップが入っている。肝油ドロップは薬の錠剤のように1つずつ包装され、1つずつミシン目で区切られている。これを持ち帰って、保健係は教室で配布しなければならない。他の児童にとっては、休み時間が終わって教室に戻ったら肝油ドロップが机の上に載っている形だ。

 この肝油ドロップ、直径約1センチの円形。横から見ると楕円。周囲がコーティングされ、中身は今風に言えばグミ。色は白、オレンジ、黄色などがあった。まさにちょっとした、おやつ感覚で食べていた。一体これが体にどう効果があるのかあいにく忘れたが、ある種のビタミンが含まれており、暗いところで見えづらい、鳥目に効果があることだけは覚えている。

 休みの前の日は翌日の分も含めて2つずつ配布された。翌日なんて待ってられないから、一度に2個食べてしまう。また、夏休みの前などになると保健室で休み期間中の肝油ドロップの販売が行われた。円形のプラスチック容器に50個ほど入って、200円だった。「一度にたくさん食べると鼻血が出る」と言われていたが、このまとめ買いで、恐る恐る余計に食べて楽しんだりもした。鼻血は出なかったが、案の上、休みの終わり頃にはもうなくなってしまっている。

 肝油ドロップは街の薬局でも売られていた。缶に入って、モノクロの少年の写真のパッケージだった。健康補助食品のはしりだったわけだ。

(秀)