第1684話 ■ラッパ飲み

 今でこそ水は買って飲むような世の中になってしまったが、かつては水道水を平気でがぶがぶ飲んでいた。ところが、夏が近づくと、衛生上の問題から、学校にも水筒を持ってきて良い時期があった。ただし、ジュースや今で言うスポーツドリンクの類は不可。基本的に麦茶を冷やしてくるケースが多かった。

 水筒には様々な形状がある。基本的には円筒形で上部のふたがコップになっているのが多いが、これはややかさばってしまう。一方、平べったい円形で、小さなキャップが付いた水筒もあった。この小さなキャップをコップにしてお茶を注いで飲むのは、やや面倒くさい。そこで男子はこのような水筒の場合、注ぎ口に直接口を付けて、ラッパ飲みをしたもんだ

 ラッパ飲みは行儀の悪いもので、女子はやらなかったし、それをやる男子を見て女子は「ああ!、ラッパ飲み」と、何か悪いことをしている現場を押さえたかのように声を口にした。けどそんな環境は今となっては一変してしまっている。女子どころか、妙齢の女性でさえも、ペットボトルの口からラッパ飲みをすることに何のためらいも持たないようになってしまっている。

 ペットボトルの多くは500ミリリットルで、このサイズぐらいでは何のためらいもないようだ。しかし、時代をやや遡れば、このサイズはコカコーラで言えば、ホームサイズである。同じ分量とはいえ、ホームサイズのガラス瓶を持ち上げるには、世の多くの女性たちには抵抗があるだろう。

 このようにラッパ飲みが一般化し、女性も含めて行儀が悪くなった原因はペットボトルの登場のせいか?、というとそうではない。その原因はさらに早く、缶ジュースにあったと思う。コップなどを介さずに直接飲み物を飲むようになったきっかけが缶ジュースだった。それが進化して、ペットボトルのラッパ飲みにも抵抗を感じなくなった女性が増えたのだと考える。便利さはあるとき、身の美しさをも割愛してしまう。

(秀)