第303話 ■音信

 「便りがないのは無事な知らせ」という、あまり論理的でない諺が存在する。「あの人、最近メール送って来ないなあ」、「きっとサミット前で忙しいんだろう」(別に政府の要人とメルトモなわけではない)。まあ、これ、毎日毎日コラムを書いていられる程暇があるのは私ぐらいなものであろう(けど、最近は結構仕事が忙しい)。

 これは向田邦子さんの本に載っていた話(実話)。太平洋戦争で戦況が悪化し、東京空襲が激しくなったため、彼女の末の妹さんが田舎に疎開することになった。すると父親は郵便葉書を大量に買い込んで来て、全ての宛て名に自宅の住所を書いたそうだ。そして、父親は疎開する小さい娘にこう言って、葉書を渡した。「元気な時は大きいマルを書いて、一日一通必ず出すように」。妹さんは小学校に入ったばっかりだったが、両親が字を教える暇がなかったかららしい。最初の一通目は葉書からはみ出すほどの大マルが、赤鉛筆で書いてあった。しかし、次の日からマルは急激に小さくなり、やがて、マルはバツになり、ついに葉書も届かなくなった。そして、病気との知らせが届き、妹さんは連れ戻されたらしい。

 自分は何の用もないのに電話して来るが、いざ用もなく電話すると「お金がもったいないから」とさっさと電話を切りたがる。ちょっとでも遅くに電話すると、「もう寝るところだった」と、うらめしそうなときもある。どこの親もこんな感じなのだろうか?。それでも電話を掛けるのが最も簡単な親孝行のため、早く家にたどり着いたときには電話の前に座ってみようかなと思ったりする。「今年も夏休みには帰りません。子供達が行くのでよろしく」。ちょっと悲しい。