第807話 ■鈴木京香

 有能な働く女性、いわゆるキャリアウーマン。しかもある程度重要なポジションに位置する、「できる女」。これが、女優鈴木京香が得意とする役どころであろう(三谷幸喜作品は例外)。彼女の年齢層でこのような役、しかも主役級となると、彼女をおいて他にはまず思いつかない。かつてトレンディドラマなどで注目を集めた女優達(山口智子、鈴木保奈美、安田成美など)も年齢的に彼女とほぼ同年代に達しているはずだが、不運にもいずれも一線を退いてしまっている。また、この年齢層も女優不足か?。

 彼女は実年齢よりも若干年上の落ち着いた感じの役が多い。同じ年齢層で彼女以外の「できる女」をキャスティングすること自体は可能だろう。しかし、プロデューサーや脚本家が彼女を求める理由は、こういった表向きの役どころではない部分への期待にあると思う。

 それは、「怒ること」であり、「困ること」である。順序を逆にして、まず、「困ること」の方から説明するが、彼女が「できる・強い女」だけでなく、ある種の弱さや優柔不断さを持った女性として描かれた場合、必ず困った表情を見せるシーンがある。すがって困った顔を見せられると男性は弱い。「できる女」との落差が大きいほどその効果はでかい。彼女の表情や演技は見事にそのツボを突いてくる。

 そして、もう一方の「怒る」鈴木京香はほぼ例外なく、登場するドラマや映画で描かれている。大きく目を見開いて、裏返ったかのような声でまくし立てる。それは正義感からなせるものか?。ただ目の前にいる人(々)に対してメッセージを吐いているだけでなく、それは見る側への制作サイドからのメッセージだったりする。

 これほど怒るシーンが似合う女優も少ない。他の役者さんなら、怒りながら涙を流すだろうが、彼女にそんな姑息な手口は無用(たまに涙するときもあるが)。これが鈴木京香が重宝がられる理由であろう。怒る女優鈴木京香。ただ、これまでの作品の中に、代表作といえるほどのヒット作がないのがちょっと悲しい。

(秀)