第855話 ■ウェルズからの招待状(5)

 さて、再度話を本に戻そう。本の最後の部分には具体的な場所や日付等は記されていないものの、ウェルズ自身がタイムマシンで我々の前に姿を現す日が近いことが記されていた。自分はこの時代に安住したいため、未来にはもう戻らず、発見した人にはそのタイムマシンを差し上げるとまで書いてある。その日がいつか、その場所はどこか、世界中がその謎解きに熱中した。

 この「ウェルズからの招待状」が出版される際に、出版社の意志により一部削除された部分がある。そもそも「ウェルズからの招待状」という表題すらもこの出版社によって捻じ曲げられて付けられたものだった。削除された部分を見る限り、原題通り「警告書」とするのが妥当だったはずだ。本当に彼が我々に伝えたかったことが消されてしまっている。もちろん、世の多くの人はそんなことなど知らず、謎解きに熱中したままだ。その部分は次のような内容だった。

 「私がかつて書いた小説『タイムマシン』は先にも述べた通り、私が実際に80万年後の未来として見てきたものである。そして私は命からがらあの暗黒の時代から19世紀に戻ったのをご存知の諸氏も多いことだろう。私はもう未来へのタイムトラベルはこりごりだ。私が生まれた42世紀に比べれば、19世紀や21世紀は戦争や貧困があるものの、夢のような時代である。

 それでもあなた方はまだタイムマシンにあこがれ、未来人との遭遇や未来へのタイムトラベルを夢見るだろうか?。未来を知り、金儲けを企もうとする輩は後を絶たなかった。しかし、さらなる者の手でその結果はすり替えられ、結局誰も金儲けなどできずに、無秩序なパラドックスが頻発し、未来も現代も過去も別のものへと常に変わりつつある。それでもまだ….」。

 そして話はタイムマシンで21世紀に自分が現れる、という部分につながる。そして、自分以外にも現れるであろう、その数に関する記述の部分も削られていた。

 西暦20XX年。ウェルズの予言通りに未来人は暗黒の時代となった未来や絶滅の危機に瀕した未来を捨て、タイムジプシーとしておびただしい数で私達の前に姿を現した。人口は既に2倍以上に膨れ上がり、その勢いは止まらない。地球滅亡までの時間がこれでさらに加速されてしまった。

<完>

– – この話はフィクションです。- –

(秀)