第904話 ■お見合い道場(4)
- 2002.12.13
- コラム
「はーい、ダメ、ダメ、ダメ。何回言えばわかるの?。小百合さん」。
「はい、師範。申し訳ございません」。
「あなたは今、自立した強い女なんですよ。それをなんですか、妙に男性に媚びようとしたり、頼りたいといった感じが見え見えじゃないですか。分かってんですか、もうー」。
途端にこの男の表情が変わった。そう、これはいつものこと。洗脳とまではいかなくてもこうして、なだめたり、すかしたり、またその状況を見せたりするのはこちらの手。そうよ、そこで泣く。小百合さん、泣くのよ。OK。彼女も相当な役者ね。
「あら、御免なさい、田所さん。変なところを見せちゃって。本当に申し訳ございません。びっくりなさったでしょう」。
「はあ。急に何があったのかな?、って...」。
動揺してる。動揺してる。この男、確かに今動揺している。
「ところで、田所さん。あなたは運が良い人だわ。今回こうして我がお見合い道場にいらっしゃったのだから、あと1回のお見合い、いや、お見合いしなくても、あなたが最適な方を見つけるお手伝いが私達にはできます。スペシャルコースとして、ちょっとお高くなってしまいますけど、いかがなさいます」。
「ス、スペシャルコースと言われますと?」。
「はい、田所さんは『運命の人』というのを信じますか?。運命の二人はその小指と小指が赤い糸で結ばれているというあれです」。
「はあ、話には聞いたことがありますけど...」。
「芸能人とかで、華々しく結婚しておいてすぐに、性格の不一致とか、すれ違いとかで別れるカップルがいらっしゃいますでしょう。あれは赤い糸とは別の人同士が結婚していたんです。私の診断によると、あの松○聖○さんも、少なくとももう1回は離婚と結婚を繰り返されるんじゃないかしら」。
「何度お見合いを繰り返そうと、『運命の人』に出会わない限り、幸せな結婚は望めません。お互いに貴重な人生の時間を無駄にするだけです。ですから私達はそんな無駄な事をせず、本当に『運命の人』をご紹介して差し上げようというコースをご用意しておりますの。えーえ」。
ここまで言って、スペシャルコースを断ってきた者など、一人もいない。まさにそれを求めているような人ばかりやってくるから。
「ちょっと、例のものを持って来てください」。
<つづく>
– – この話はフィクションです。- –
(秀)
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