第1524話 ■落語娘

 巷では落語ブームらしいのだが、自分の場合、それ以前の状態を知らないのでブームかどうなのかはよく分からない。それなら、ブームに乗って、落語好きになったんだろう?、と言われそうだが、私の周りで落語、落語とそれほど騒いでいる人はいないのでやはりよく分からない。けど最近、テレビや映画で落語が取り上げられるようになったのは事実だ。

 今年の晩夏に「落語娘」なる映画が公開される。但し、配給元が日活と非力であるため、あまり多くの劇場では上映されないようだ。主役の落語娘香須美をミムラが演じ、その師匠を津川雅彦が演じている。単なる落語家の舞台裏を扱った映画かと思ったら、そうではなくドキドキとする要素も盛込まれていた。原作本を読んだので、内容をかいつまんで紹介したい。

 三々亭香須美は入門から5年の、けどまだ前座の女性落語家である。彼女を落語の世界に引き入れたのは中学生のときに落語好きの叔父に連れられ一緒に寄席で見た、三松家柿紅の「景清」だった。やがて叔父は病の床に伏し、香須美は病院でこの叔父のために落語を披露する。そのときに叔父に自分が落語家になると約束して、間もなく叔父は亡くなってしまった。それからというもの香須美は高校、大学と落語研究会に籍を置き、学生落語コンクールで優勝するまでになった。

 香須美は大学を卒業すると三松家柿紅の元へ弟子入りを志願し、師匠の前で師匠の十八番であり、自分を落語の道に引き入れた「景清」を演じるのであったが、不採用となる。柿紅は正統派の噺家である。古典落語を守っていく立場から、所詮女には落語は無理、との判断を下した。ところが捨てる神あれば拾う神ありと、香須美はひょんな出会いから三々亭平佐の弟子になった。

 ところがこの平佐師匠、高座では古典などやらずに漫談めいた時事ネタや同業者の悪口などを言って、協会から異端児扱いを受けている。毒舌が一時期受けて、テレビなどにも出ていたが、テレビの生放送での障害者に対する差別発言が原因でテレビ局からも締め出しをくらい、干されている。加えて弟子の指導には全く熱心でなく、弟子に金をせびるようなダメ師匠だ。

 そんな中、落語界には禁断の噺としての伝説を持つ、「緋扇長屋」という演目がある。明治の終わりに落語家の芝川春太郎が書き上げたものであるが、春太郎はこの草稿を書き上げるやその文机でそのまま絶命していた。さらに、これまで2度、この演目は高座に掛けられているが、一人目は高座の途中で絶命し、二人目はこの噺を前編後編に分け、前編が終わったところで一旦楽屋に引き上げたところで絶命してしまっていた。いずれも死因は心臓発作。緋扇長屋とは放火により燃えさかる長屋の様子が緋色の扇のようだということで名づけられている。怨念話だ。

 平左はこの「緋扇長屋」に目を付け、起死回生の策としてこれを自ら高座に掛け、テレビで放送しようという話に乗る。いわく付きの噺は40年ぶりに日の目を見ることになるのだが、平左は無事に「緋扇長屋」をサゲまで持っていけるのだろうか?。

 ああ、映画の公開が待ち遠しい。

(秀)