第633話 ■土産物のセンス ~国内編

 東京生まれの東京育ちの人が東京タワーに行くことはあまりないらしい。かつての東京の目玉スポットももはやこんな状況である。東京のタワーに併設されている蝋人形館や水族館もどちらかというと上京して来た人向けだろう。サンシャイン60や都庁の展望台もそんな気がする。

 東京タワーの1Fは土産物売場である。これが結構笑える。20年以上、時間が止まってしまっているような気がする。総じて店員のおばさんは無愛想だ。冷やかしで品物をいじっていると怒り出す。学生や子供にはもっとひどい口調なのだろう。「努力」、「根性」、「東京」。こんな文字が提灯やTシャツの上で踊っている。ここまで露骨なのは外国人狙いなのだろう。しかし、小さな東京タワーの模型の横にカレンダーやペン立て、温度計が付いた置物をかつて兄が買って帰ってきた。きっと彼も初めての東京で舞い上がっていたのだろう。

 いったいこんなものを貰って誰が喜ぶのだろうか?、という商品のオンパレードである。東京の観光スポットをコラージュ状に寄せ集めたタペストリーなんてのがある。東京タワー、二重橋、パンダに都庁、それに東京ドーム。位置関係はめちゃくちゃ。全てがこの絵のように隣接して存在していると誤解してしまいそうなデザインだ。そして中央には「東京」もしくは「TOKYO」の文字。おまけに縁が優勝旗のように房で縁取られている。

 部屋を訪ねてきた誰かに見られたら恥ずかしいと思いながらも、貰ったからには捨てるにも忍びない。せっかくなので数日は壁に飾っておくことにしよう。さて今日ももう寝るか。部屋の明かりを消すと、タペストリーの中から暗闇に夜光塗料で描かれた東京タワーがポッカリと浮かび上がった。

(秀)