第853話 ■ウェルズからの招待状(3)

 この本に書かれていることがもし真実だとすれば、クレオパトラもプレスリーも、それにマリリンモンローもタイムマシンで時空を越えて過去からこの今の時代にやって来たと思うだろう。しかし、本の中にはもっと逆説的に、もっと驚くべきことが記されていた。

 「クレオパトラが突然21世紀に現れるとしたら、それはタイムマシンで過去からやってきたと思うのが普通であろう。その前にタイムマシンの存在そのものが疑わしいと思うかもしれないが。しかし、そもそも彼女がいつの時代に生まれたかという観点でを考えると、一方的に過去からやってきたとは断定することはできない。そもそも今の時代に生きていた女性がタイムスリップして過去に渡り、歴史の一頁にその足跡を記しているのかもしれない。

 多くの人が未来を知りたがる。自分の将来の様子を知りたいというところから、中にはそれで金儲けをたくらむ者もいるであろう。ギャンブルで一山当ててやろうと思うのも無理からぬことだ。また、多くの人が過去に戻りたいと思う。その過去の瞬間を変えることで、自分にとってより良い今やより良い未来を欲するのも分かる。それは例えば過去では現在が未来であるからで、その時点での未来を知っているからこそできることだ。

 歴史に名を成した、偉人と呼ばれる人々が未来を知っていたとしたら。彼らの能力に驚くべき要素など何一つない。過去が未来を作り出しているのではなく、更なる未来が過去を作り出している事実にそろそろ我々も気が付くべき頃だろう。かく言う私も未来で見てきたことを文字にして書き記しているに過ぎない。この本も、そして、小説『タイムマシン』もまさしくそうだった」。

<つづく>

– – この話はフィクションです。- –

(秀)