第868話 ■スペース・インベーダー(前編)

 小学6年生のときだから、24年前ということになる。季節は今よりもちょっと寒くなった頃だったと記憶している。学校の友達に誘われて、放課後、校区外のコインスナックに自転車で遊びに行った。田舎の外れにぽつんとあるそのコインスナックというのは自動販売機を集めた無人の店舗である。自動販売機と言っても普通に街角にあるそれとは違い、数十秒でハンバーガーやうどん、やきそばなどが熱々になって出てくるもので、私達には非常にそれが珍しく、それだけでも楽しかった。

 このコインスナックの奥にひっそり1台のゲーム機があった。初めて見るそのマシンこそ、スペース・インベーダー、それであった。全国的なブームになったのは確かこの翌年だったと思うので、それに先立つこと約半年ほど前ということになる。そのゲーム機はスタンド型(立ったままでプレイする)だった。ちなみに当時のゲーム機の代表機種はブロック崩しだったはず。コロコロコミックで「ゲームセンターあらし」というゲームの天才少年を扱ったマンガが始まったのもこの頃だったと記憶している。

 1回100円というのは小学生にはかなり高額であったが、中にいたゲーム好きの友達が早速その見慣れないマシンに100円玉を投じた。残った数人は顔を寄せ合い、ディスプレィに食い入る。妖しい侵略者の足音らしき、あの音を初めて耳にした。あっけなく砲台3台はやられてしまって、ゲームオーバー。他に人気(ひとけ)のない、寂れたコインスナックの中で、僕らは交代でそのゲームに興じた。お金がないので、出し合って、砲台1台交代などでやって、私もちょっとだけやってみたが、結果は散々たるものだった。誰もが迫り来るインベーダーの姿に気を取られ、UFOの出現も分からないほどだった。

 みんなが持ち金を使い果たしてその日は帰った。翌日、学校で他の友達にこの初めて体験した新たなゲームの話をし、その日の放課後も今度は一部メンバーを替えて私達はまたそのコインスナックへと自転車をとばした。

(秀)