第1039話 ■シスアド魂

 会議が終わって自分の席に戻ると、向かいの席に座っている女性が「ネットワークがおかしい」と騒いでいる。かと言って、周りの他の人々が同じような不調を訴えているわけではなく、彼女だけがネットワークケーブルの差込口を変えてみたり、ケーブルを変えてみたりを何度も繰り返しているようだ。

 こんなときのために会社にはシステム管理部門というのがある。彼女はそこに電話を掛け、状況を伝えている。私の席からちょうど彼女のマシンの後ろ側、ネットワークポートが見える。確かに送受信しているときに光るべきオレンジ色のランプが消えたまんまだ。今朝はちゃんと動いていた。うまく繋がっていたかと思うと突然切れたりするらしい。「どーれ、ちょっと見てやろうか?」。席を立って向こう側に回りこむ。

 いくつかコマンドを叩いてみた。今は確かに繋がっていない。ランプを確認してみようとノートパソコンのディスプレイを前に倒して後ろを覗き込もうとした。そのとき、パソコンがちょっとぐらついた。ここでピンと来た。「ちょっと一旦シャット(電源を落として)して」。「それとちょっと(自販機で)お茶買ってきて」。財布から小銭を出して彼女を使いに出した。

 そのノートパソコンというのは、パソコン本体にドッキングステーションが付いている。ネットワークや電源、マウスなどのケーブルはこのドッキングステーションに繋がっている。このドックを外すとすぐに持ち出せるところが良い。ちょっとパソコンを揺すってみた。左右で揺れ方が違う。一旦ドックを外して付け直す。今度はしっかりはまった。電源を入れ直してマシンが立ち上がっている所に彼女がペットボトルを手に戻って来た。

 問題なく動いているマシンに彼女は驚いている。早速、システム管理部に電話で回復を報告している。多分、「どうしたら直りましたか?」と聞かれたのだろう?。「私はちょっと席を外していたので見ていないのですが….」、「周りのネットワークの詳しい人に見て貰いました」と言っている。「ドックがきちんとはまってなかったんだよ」と教えてあげると恥ずかしそうに、けど正直にそう電話の相手に伝えている。電話の向こうで笑われたらしい。

 ドックがうまくはまっておらず、接点の接触不良で「ネットワークがおかしい」と騒いでいた姿も面白かったが、それ以上に彼女が私のことを「ネットワークに詳しい人」と言ったことがおかしかった。確かにちょっとはネットワークに詳しいけどね。今回はネットワークの知識なんか全く不要だったんだけど。

(秀)