第536話 ■誘惑の後日談

 第489話の「真夜中の誘惑」で、腕時計が欲しいという話を書いたが、算段はことのほかうまくいき、実は数日後には入手を果たしていた。消費税まであわせると約15万円の代物である。しかし、ローレックスやオメガなどに比べると、かわいいもんだ。算段と言いながらも、分割払いにした。

 さて、その時計の機能であるが、多機能複雑時計で、機械式ならウン千万円はするような機能をクオーツで再現している。1つはミニッツリピータ機能。現在時刻を3種類の音の組み合わせで知らせてくれる。かつての懐中時計にこの機能が付いたものがあり、これは実際に鐘をハンマーで叩いて出していた。機械式のこの懐中時計はウン千万円だった。これを私の腕時計はリアルな電子音で再現している。だからこんな値段で可能なのである。

 それともう1つの機能は永久カレンダー。月の日数が30日であろうと、うるう年だろうと、1日に31日と表示されていて、きこきことやる、あのカレンダーの調整が2100年まで不要ときた(100年毎に起きる、うるう年の例外には対応していない)。機械式の腕時計でこれをやろうとすると、これまたウン千万円の世界だ。機械式となると、4年に1回だけ回る歯車があるらしい。この他にもクロノグラフ(ストップウオッチ)やムーンフェイズの機能もあって、文字盤上には9本の針がレイアウトされている。

 しかし、所詮は時計である。刻々というか、黙々というか、時刻を刻み続けているだけだ。いくら多機能時計と言っても、四六時中そのそれぞれの機能を発揮しているわけではなく、ほとんどの時間は普通に時計でしかない。要は眺めるだけのものとなってしまう。正直なところ、既に3日目には飽きてしまった。どうやら私は時計コレクターにはなれそうもない。いや、それだから別のものが欲しくなろうのだろうか?。

(秀)