第712話 ■襟裳岬

 通勤途中のラジオからこの曲が流れてきた。多くの人が知っている森進一のものではなく、吉田拓郎が歌っていた。作曲者である彼によるセルフカバーだ。森進一が現在の地位を得、そして今もそれを維持できているのはこの曲と「おふくろさん」の2曲によるものに他ならない。しかし、いざこの曲を聴き直して歌詞を振り返ってみると新しい発見があったりする。

 全体的に歌詞にあまり重要な意味が感じられない。それでもこの曲にメッセージ性があるとすれば、それは「襟裳の春は何もない春です」というサビの部分に尽くされているのかもしれない。吉田拓郎が淡々と歌うと、本当に何もないような気がしてくる。これだけの歌詞でしかないものをヒットさせた森進一の表現力に改めて驚く。あの声とくしゃみを我慢したような状態で歌いきるところが良いのか?

 2番の歌詞もやはりあまり意味がないかも。2番の冒頭は「君が飲んでるコーヒーは2杯目で、角砂糖は1個だったね」という意味の歌詞である。歌詞の展開には何の意味もない描写だ。そして、もっと面白いのは曲の最後の部分。「寒い友達が訪ねてきたよ」というくだり。「寒い」は文字通りの”寒い”だろうが、最近は面白くないギャグを言う人にも「寒い(サブい)」という言葉を使う。山崎邦正みたいな友達が襟裳岬まで訪ねて来た絵が浮かぶ。できれば「ガキの使い」のオープニングでやって貰いたいものだ。

 何もなかろうとも春はもう近い。

(秀)