第865話 ■電気屋さん

 昔は街のあちこちに電気屋さんがあって、テレビも冷蔵庫も洗濯機もそこで買うのが普通のことであった。注文すると、数日後にトラックでやってくる。当時の大型家電商品はダンボールではなく、発泡スチロールと木の枠に囲まれた形の荷姿をしていた。バールを使ってまず家の前でこの木の枠を壊し、ビニール袋を外して家の中に運び込む手順である。子供だった私は壊れた木の枠を拾って、何とかこれで遊ばないかと考えたりしたもんだ。けど、薪にでもしない限り、電気屋さんが持って帰っていた。

 その電気屋さんの多くは単一メーカーの専売店である。東芝とか、ナショナルとか、ある単一メーカーの看板を揚げている。かつては家電メーカーも販売チャネル政策として街の電気屋の囲い込みを行い、商品を卸す際にもその系列の販売店であることを条件付けるなどしていたと聞く。私の家では父の仕事の関係上、多くの電気屋と付き合いがあったが、時期的に偏りがあるため、その時期に買ったものは全て東芝製品で、サザエさんの家と同じテレビがあったのがちょっと嬉しかった。

 ただし、専売店というのは客の立場からすると極めて不利益である。他のメーカー品との機能や価格の比較ができない。自動車ならまだしも、東芝のテレビじゃなきゃダメだ、とか、ナショナルの冷蔵庫でなきゃ嫌だ、いう人はあまりいない。いま家の中にある家電品を眺めてみると、値段や機能を比較した結果、たまたまそのメーカーの製品を購入したに過ぎないものがほとんどだ。まあ、それでも専売店や街の電気屋さんの商売が成り立っていたのは、壊れたときに修理に来てくれる、という安心感だったと思う。本当に昔はよく修理していた。今は修理するどころか、買い換えた方が安上がりな場合が多かったりする。そして、これほど進歩が早いとなかなか直す気にもならない。

 当時、東芝の店の前には「光速エスパー」の人形が立っていた。それならナショナルは「ナショナルキッド」か?、というとそうではなく、「ナショナル坊や」というキャラクターの像だった。女の子の人形もあったような気がするが、ちょっとおぼろげ。日立は鳥のポンパ君。「ポンと押してパッと点く」トランジスタ使用テレビ、キドカラーにちなんで名付けられたらしい。ソニー坊やというのもいたらしいが、あいにくこれは覚えていない。もちろん、ビクターは犬のニッパー君。あれは蓄音機から聞こえる亡き飼い主の声に耳を傾けているのらしい。薬局も含めて、キャラクター人形が流行った時期だった。

(秀)